機械設計者が無期雇用派遣(技術派遣)で働くことのメリット・デメリット

私はこれまで12年以上5社に渡り機械設計、開発、技術に携わってきました。

その就労期間の、実に半分以上となる7年間を実際に特定派遣業(技術派遣)で過ごしています。

今回は特定派遣業での就労を検討している人や、実際に働いている方向けにメリットとデメリットを紹介したいと思います。

私も派遣業界にはお世話になったうえ、運良くキャリア形成できたので、誹謗中傷する意図はありません。

が、私個人の見解としては、長期間の就労は推奨しません。

もし派遣会社に就労するときは、比較的短期間(3〜6年で派遣先1〜3箇所まわる程度)でキャリア形成の一助とする働き方をオススメします。

事実+所感を交えて詳細の紹介です。

1.無期雇用派遣(技術派遣)のメリット

  • 正社員という肩書で就職しやすい
  • 比較的大企業の案件が多く、派遣先の福利厚生を利用できることがある
  • 未経験から希望の職種で働ける可能性がある
  • 派遣先の社員と比較して仕事の責任が軽い傾向にある
  • やばい職場&やばい人から逃げやすい

1-1.正社員という肩書で就職しやすい

新卒でも中途でも「正社員」としての雇用のハードルが低いです。

特定派遣で働いていない人からすると「派遣で正社員ってどーゆーこっちゃ?」と思われかもしれません。

業界の仕組みとしては、

  • 派遣会社が人材を正社員雇用する
  • 派遣先(出向先)へ配属させる
  • 派遣先から回収した人件費からマージンを取って、派遣した社員へ給与を支払う

というような流れとなっています。

労働者は派遣会社と雇用契約を結びます。

大抵は社会保険・厚生年金完備で、賞与も支給されるところが殆どです。

派遣先で残業が認められる場合、残業代も満額出ます。

定期昇給もあります。

制度面だけ見ると正社員と変わらないです。

1-2.派遣先の福利厚生を利用できることがある

具体的かつ端的に述べると、派遣先が大企業の場合は社員食堂を使える場合が殆どです。

中小企業は社員食堂が無い職場が大半で、昼食の選択肢は

  • 仕出し弁当
  • コンビニ飯
  • 近所の飲食店
  • 手弁当

のいずれかになります。

仕出し弁当は比較的安価に済みますが、それ以外は手間や金銭面で負担が大きいです。

社員食堂は安くて美味いので、仕事のモチベーションが上がるうえ貯金も捗ります。

【追伸】

たまに社員食堂の食事が不味いと言う人がいますが、普段からそんなに良いものばかり食べてるんでしょうか。

私は自称グルメですが、あまり不味いと感じたことがなく…

「ウチの社食は豚のエサレベルだぜ!」という方がいたら教えて下さい。

1-3.未経験から希望の職種や製品群を取扱う会社で働ける可能性がある

私自身も無期雇用派遣という立場を利用して、機械設計のキャリアを積んだ一人です。

就活では狭き門のト◯タ、◯産、ホ◯ダなどの名だたる自動車メーカーや超優良サプライヤーで設計ができるチャンスがあります。

他の派遣先では重工系、特装車、産業機器、家電、航空宇宙、船舶など多岐にわたります。

派遣会社と一口に言っても得意分野に差があるので「設計がやりたい」という人は設計案件をたくさん抱えている会社に行くと、設計職に就ける可能性が高くなります。

(開発に関連する求人の場合、現場で部品の測定や実験をする仕事が結構あるので注意して下さい)

タイミングにより「今は◯◯株式会社に人材を積極投入したい」などの営業戦略があるので、面接時にこれから増員する業界や製品の情報を入手しましょう。

また「この会社・分野で経験を積みたい」という思いがあるなら、面接時に取引の有無や会社の方針をよく確認して下さい。

自身の志望する会社・業界と派遣会社の戦略がマッチすればお互いWin-Winなので、派遣先で実施する就業前の面談でも連携が取りやすく説得力のある説明ができます。

仮にトレーサーとして派遣された場合でも、契約更新のタイミング(概ね1〜6ヶ月毎)で業務内容を広げて設計まで任せてもらえる可能性があります。

現在の業務への習熟度合いや業務量にもよりますが、派遣先の上長と行う面談などでヤル気と熱意を伝えてみるといいでしょう。

1-4.派遣先の社員と比較して仕事の責任が軽い傾向にある

一概に全ての派遣先において責任が軽いとは言い切れませんが、大抵の場合は責任が軽い仕事を任されることが多いです。

そして未経験から機械設計を行う場合、責任が軽いことはメリットになり得ると思います。

なにせ機械設計は覚えることが非常に多く、経験がモノを言うことが非常に多いです。(どんな仕事でもそうかもしれませんが・・・)

プレッシャーや納期のキツイ職場だと重圧に耐えきれずメンタル不調からの休職というパターンが非常に多く、設計未経験者が第一線で耐えられるか?ということについて疑問が残ります。

身になる仕事内容で、かつ負荷が高い場合は成長やスキルアップに繋がるので、一概に正社員より無期雇用派遣の方が良いとは言えません。

メンタル的にタフな諸兄であれば未経験でいきなり正社員として働いてみてもいいでしょう。

1-5.やばい職場&やばい人から逃げやすい

やばい職場&やばい人がいた場合、職場を移ることのハードルがどこかの会社に正社員雇用された場合と比較して低いということが挙げられます。

社会保険も切り替えの手続きをしなくていいし、次の就労先も担当の営業が探してくれます。

そして、再配属されるまで研修or自宅待機のオマケつきです。

自宅待機と言えど、派遣会社の正社員なので給与は出ます。(規約で何割かはカットされるかもしれませんが・・・)

業界の特色や文化をお試しで学ぶには最適な環境かもしれません。

2.無期雇用派遣(技術派遣)のデメリット

  • 比較的ルーチンワークが多く、仕事の範囲が制限される
  • 教育にかけてもらえる費用が安いor無い
  • 派遣先で閲覧できる情報に制限がある
  • 基本的に給与が安い
  • 頑張りや成果が給与に反映されず、昇進や職位UPしない
  • 派遣先が変わると転職するのと同じくらい環境が変わる
  • 契約打ち切りによる収入減少リスクが高い
  • 派遣先や仕事を選べない

2-1.比較的ルーチンワークが多く、仕事の範囲が制限される

仕事の内容は派遣先の意向を汲み、要求に応えられる人材を派遣しますが、大抵は具体的に任せたい仕事内容が決まっています。

日々の業務は基本的にその範囲を逸脱することはありません。

業務範囲を増やしたい場合、契約内容の見直しが必要です。

このように派遣される人材の担当領域が予め決まっているし、派遣先のニーズも固まっていることが大半です。

もう少し具体的に説明すると、

  • 図面のトレース
  • 3Dモデル作成
  • 詳細設計・検討
  • 製品の計測、データ測定
  • 部品や資材の手配作業

など「ある程度の素養がある人手が欲しいだけ」の場合に無期雇用派遣が良く利用される傾向にあります。

もちろん、どれも必要で誰かがやらなければいけない仕事です。

が、向上心のある方は同じことの繰り返しに飽きがくるでしょう。

2-2.教育にかけてもらえる費用が安いor無い

新卒の場合、雇用元である派遣会社にて基本的なビジネスマナーなど社会人としての基礎研修があるところが殆どです。

中途採用に於いては年代や入社タイミングにより、やったりやらなかったりします。

その後、実務向け研修に移るわけですが、その内容は到底実務に耐えるようなものではありません。

CADソフトや計測機器の使い方を触りだけ教えてもらったり、力学の復習程度の内容が多く、学生の延長をやっている感覚に近いです。

これらの研修はあればマシな方で、右も左も分からないまま派遣先にブチ込まれることもあります。

派遣先では、職場で安全に過ごすための安全講習や、実務に最低限必要な研修が受けられます。

具体的には、

  • 自社製品に関する詳細
  • 設計手順
  • 関連部署の役割
  • ツールの使い方

こんなところでしょうか。

こうして最初に基礎知識を詰め込まれた後は、OJTにより先輩や上司から指導を受けながら、実務に励みます。

ここまでは普通というか、まあこんなもんだよねっていう感じだと思います。

問題はその後です。

派遣先のプロパーが順次受けていく社内教育や社外イベントを尻目に、ひたすら業務をこなす日々が続きます。

「現場を知らないと設計できないだろう」ということで、大企業・中小企業に関わらず現場研修がある職場もそれなりにあります。

それら現場研修は、基本的にプロパーのみ対象です。

また各種展示会や、客先・取引先への出張訪問なんかにお声がかかる事も稀です。

  • 社員の成長を促す。
  • 外部から知識を得て知見を広げる。

このように、継続してスキルアップを促し教育してくれる派遣先はほぼ無いと言っていいでしょう。

また、勉強になる業務で、やる機会が少ないものは教育のため優先的に若手プロパーに振られる傾向にあります。

派遣社員はプロパーと同じ時間を職場で過ごしていても、どうしても成長機会が少ないです。

2-3.派遣先で閲覧できる情報に制限がある

製品開発の戦略だったり、その会社が積み上げた技術・ノウハウのコアな部分は、基本的に閲覧する権限がありません。

大企業だと、社内の立ち入れる区画がプロパーと派遣者で区別され、制限されていたりもします。

仕事をするのに必要な場合に限り、情報の閲覧や立ち入り制限を解除してもらい業務を行います。

こんなブログを読んでいる好奇心旺盛なアナタにとっては歯痒い環境のこと間違いないです。

2-4.基本的に給与が安い

同一労働同一賃金が叫ばれ久しいですが、この雇用形態にそんなものは適用外です。

20代前半の時期はそれほど格差を感じません。

20代後半から30歳になったくらいから賃金格差が目立ち出し、30代中盤〜30代後半になる頃には数百万単位で給与額が変わってきます。

この傾向は大企業に派遣された場合に特に顕著に表れ、比較的給与の安い中小企業では比較的格差を感じにくいでしょう。

自分が設計開発しているB to C商品が高額すぎて、派遣の給与だと買えないなんて事はザラにあります。

2-5.頑張りや成果が給与に反映されず、昇進や職位UPしない

そもそもですが、雇用元からの評価は派遣先の上長の評価に依存します。

客先にて一人で常駐していると、働きぶりを派遣元に直接観察されているわけでもないので、アピールすることが難しいです。

基本的に会社員として就労していると、成果を出しても給与に反映されづらい構造なのは皆様周知の事実かと思います。

その中でも特に派遣社員は評価されづらいと言えます。

派遣の賃金体系が低い事の一因として、昇進や職位UPが無い会社があります。

また派遣社員は離職率も比較的高いので、わざわざ昇進・職位UPの制度を作らなくても問題が起こりにくい構造となるためです。

逆に業務請負などで派遣先会社にて複数人でチームを組んで就労している場合は、チームリーダーなどの職位や縦割り制度が必要となるため、昇進のチャンスがあります。

派遣会社に就職する前の面接時に、この辺の事情もよくヒアリングすると良いでしょう。

2-6.派遣先が変わると転職するのと同じくらい環境が変わる

無期雇用派遣のメリットとしてやばい人&やばい職場から逃げやすいことがありましたが、その一方で派遣先が変わると転職するのと同じくらい環境が変わります。

人もツールも場所も全て変わるので、良好な人間関係を築けていたり、仕事で使う道具(CAD、計測機器、各種社内システムなど)に慣れている場合、派遣先が変わると全て一からやり直しです。

年齢が若いと覚えることがそれほど苦ではないかもしれません。

が、年齢を重ね30代半ば~40代くらいになってくると、段々と新たなことを覚えるのが困難になるのは想像に難くないでしょう。

その一方、今まで積み上げた経験からツールの使い方などは何となく想像できたりもするので、

ツールへの習熟度合=(費やす時間+経験)×ヤル気

のような関係性となります。

当然ヤル気0だと習熟できません。

加齢によりその辺の気力、バイタリティの低下も想定しておきましょう。

また年齢を重ねると、当然ある程度の能力も求められるうえ、自分より年下のプロパーや他の特定派遣会社から来た派遣社員に教えを乞うことも当然あります。

その会社でしか知りえないようなことは教えてもらうしか仕方ありませんが、その他の一般的な知識・技術は相応にレベルアップしていないと居心地が悪くなります。

環境の変化に順応するのが苦手な人は、計画的に無期雇用派遣を利用することをおススメします。

2-7.契約打ち切りによる収入減少リスクが高い

派遣先で就労していない待機や研修の期間でも、正社員なので何割か給与を減額したうえで支給されます。

家計の収支設計にマージンが無いと赤字となる可能性があるので注意が必要です。

派遣先都合による契約打ち切り例として、以下のケースが挙げられます。

  • 求めている人材像とのアンマッチ
  • 組織形態の変更による人材整理
  • 経営悪化による人材整理

問題なく業務をこなせている場合、特に何もなければそのまま勝手に契約更新(概ね1〜6ヶ月毎)されていきます。

仮に契約打ち切りとなった場合でも「明日から来なくていいよ」みたいな感じにはなりません。

契約打ち切りと通知された後、実際に最終勤務日が来るまで1〜2ヶ月は猶予があるので、上手く次の就労先が決まれば待機期間無しで就労できます。

そのほか、派遣元都合による契約解除の場合はより単価の高い派遣先が見つかったことによる配置転換が考えられるので、収入的には上昇する傾向です。

2-8.派遣先や仕事を選べない

  • 新卒で会社方針に意見できるほどまだ発言力が無い
  • 派遣先にて就労後、契約打ち切りとなり次の就労先がなかなか決まらない

これらの場合は、自身の希望とかけ離れた派遣先に就労となる場合があります。

サラリーマンの場合、完全に自分のできること・やりたいことを仕事にできるわけでもないので、特にこだわりが無ければあまり気にするところでも無いかもしれません。

やってみると、意外に面白かったり興味深い仕事もあったりします。

が、自分のキャリアプランが明確に描けている場合は遠回りにしかならないため、転職するなり何かしらの行動を起こすしかないでしょう。

【まとめ】派遣で働く理由は人それぞれ

無期雇用派遣という働き方を選ぶにあたり、なぜこの会社で働くか?が明確になっていると今後のキャリア形成がしやすくなります。

が、働く理由は人それぞれです。

  • 働いてそこそこの給与もらえれば満足
  • これ以上責任増やしたくない
  • プロパーと壁があっても気にならない
  • 設計の仕事が好きでこれだけできていれば満足
  • いろいろな職場を見ていろいろな経験を積みたい
  • 今の派遣先が居心地良すぎて異動や転職したくない

現状満足できていれば、無理に派遣先を変えてもらったり、転職しなくても良いと思います。

転職してどこかの会社に正社員雇用されたとて、5年後10年後の労働環境やその会社の売り上げがどうなっているかは誰にも分かりません。

価値観も人それぞれなので、別に他人が口出すことでもありませんし。

待遇改善を狙うなら転職も選択肢の一つとして検討を

長年給与が上がらない日本社会において、一番早く収入UPさせる手段が転職です。

当然リスクもありますが、今の待遇に納得できない方も多くいらっしゃることでしょう。

終身雇用も既に崩壊しているし、会社に期待して身を粉にして尽くしても報われません。

私自身の複数の転職経験から、今は「従業員が1人の派遣会社の社長」をやっているのと変わらないと感じています。

雇用契約を結びどこかで働くということにおいて、派遣も正社員も変わりません。

それであれば、私はより有利な条件に身を置いて働いた方が幸福度が高いと思っています。

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